がん撲滅作戦を決行せよ!!全文公開
きずな161号掲載
がん撲滅作戦を決行せよ!!
全文公開
『がん教育 感染症と発がんについて』
杉山外科医院 杉山 敦(松本市医師会長)
がん対策基本法により、小学校中学校高校の健康教育の中で「がん教育」がはじまっています。がんの要因や種類、予防や早期発見・がん検診、治療法や緩和ケアを知り、患者さんの気持ちや生活の質を理解して共生する態度を育成することが目標です。限られた時間の中で学校の先生方は教材を用意し取り組んで下さっており、学校医やがんを専門とする医師が協力しています。
がん予防について「感染症と発癌」のお話をします。日本人の死亡に関連するさまざまな因子が明らかになっていますが、がん死亡の関係が証明され、対応法が明らかな感染症が3つあります。ピロリ菌と胃がん、B型およびC型肝炎ウイルスと肝癌、ヒトパピローマウイルスと子宮頚がんです(図)。
ピロリ菌は乳幼児期に経口感染し、慢性胃炎を起こし胃がんの原因となります。
松本市では中学2年生ピロリ菌検査を平成30年度に開始し、血液検査の結果に基づく感染率は予想した4%前後より低くおよそ2%である事が判明しました。感染率の低いことは良いことですが、感染者数は減っても感染した子供さんは胃がん大国日本の大人高齢者と同じく胃がんのリスクが高くなりますので、ピロリ菌陽性の子供さんと保護者の皆様には丁寧な除菌治療指導がすすめられています。実施5年が経過した大人の胃がんリスク検診(ABC検診)、診療としてのピロリ菌除菌治療とともにピロリ菌感染対策を進め、胃がん撲滅をめざしています。
C型とB型の肝炎ウイルスは肝がんの原因です。C型は数十年の経過で慢性肝炎肝硬変を経て肝がんを引き起こしますが、現在の抗ウイルス薬は費用は高額であるもののほぼ確実にウイルスを除去でき、肝がんを予防できる可能性がみえてきました。
一方B型肝炎ウイルスの活動性を抑えることは薬物でできますが完全に除くことが難しいので、感染防止が大切です。キャリアの方の出産時の母児感染を防止するために免疫グロブリンとB型肝炎ワクチンが用いられ、乳幼児期の水平感染を予防するために2017年から0歳児に対する国のB型肝炎ワクチン定期接種がはじまりました。
松本市はさらに6歳までの乳幼児全員と保育職員に対する接種補助を追加して全国的にも注目されています。
子宮がん検診(癌から治る人を増やす2次予防)について、松本市は従来の頸部細胞診に加え原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)感染検査を行って検査精度を上げており、「愛は子宮を救う」のキャッチフレーズで市民啓発活動も活発です。一方癌になる人を減らす一次予防対策である中学生高校生女子に対する子宮頚癌予防ワクチン接種は、定期接種のまま「接種部位以外の疼痛等の副反応について充分に情報提供できない」ことを理由に「積極的な接種勧奨を一時的に差し控える」状況が6年間続いています。若い世代に増えている子宮頚がんを予防する機会を失っていないか危惧しています。子宮頚がんの前がん病変を抑制するHPVワクチンの効果とワクチン接種後に観察された症状とワクチン接種の因果関係は証明できないという現在までの科学的知見があります。
厚生労働省のホームページ( https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html )をご確認頂き、検討された上で子宮頚がんワクチン接種を希望される場合は、現時点でも医師に相談し公費でHPVワクチン接種を受けることが可能である事を理解頂きたいと思います。
感染症対策ががん対策につながるこの3つの疾患(胃がん、肝がん、子宮頚がん)の状況はそれぞれことなりますが、対策法が確立している感染症は必ず解決することができます。学校での「がん教育」で皆さんに伝えて欲しい知識です。